研究内容

立命館大学理工学部環境都市工学科地球環境モデリング研究室 では統合評価モデルというエネルギー、経済、農業、土地利用、水利用などを統合的に解析するコンピューターシミュレーションモデルを用いて、主として気候変動に関連する研究を行います。気候変動に関する研究の中でも、将来の温室効果ガスの排出量見通し、その削減方策の検討、気候変動影響の経済的分析を中心とします。さらに気候変動だけでなく持続可能な発展に関連する諸事象についても統合評価モデルで対象とできるものは解析の対象とします。対象地域は国(アジアの各国)、アジア全域、世界全体といったマルチスケールを対象とし、対象期間は現在から2100年までの短中長期としています。

世界を対象とした温室効果ガスの排出量見通しとその削減費用の算定

本研究では2030年から2100年といった短中長期に及ぶグローバルの温室効果ガス削減に関する研究を中心に行います。温室効果ガスの削減はどれほど可能か、またそれにかかる費用はどの程度か、削減に必要となる技術の諸元や社会的変革の提言、政策提言を行います。解析はエネルギーや土地利用を詳細に扱った経済モデルを用いたものが中心となります。

Global primary energy supply and energy sources associated with the baseline (top) and other climate policy cases in 2100 (bottom) for SSP1, SSP2 and SSP3.
Global GHG, CO2, CH4, and N2O emissions (from top to bottom) associated with the five mitigation cases for SSP1, SSP2, and SSP3.

Fujimori S., Hasegawa T., Masui T., Takahashi K., Herran D.S., Dai H., Hijioka Y., Kainuma M. (2017) SSP3: AIM implementation of Shared Socioeconomic Pathways. Global Environmental Change, 42, 268-283.

持続可能な開発目標達成へ向けた政策提言

持続可能な開発目標、いわゆるSDGsの達成に関する研究になります。SDGsでは貧困、飢餓、公衆衛生や経済、気候変動など2030年における様々な分野の開発に関する目標を設定しており、これらのうち環境に深く関連する項目を取り上げ、定量化するとともに、様々な目標間の関係、すなわちトレードオフやシナジーなどを明らかにします。2030年に留まらず2050年、2100年までを見通した開発に関する目標を検討します。気候変動対策を行った時に他の分野では何が起こるかといった、複数の分野にまたがる計算が必要となるケースもあります。

Effects of climate change and emissions mitigation efforts on food security. a) Global population at risk of hunger and b) global mean dietary energy availability in the baseline scenario under different socio-economic scenarios (SSPs). Ribbons and error bars show the ranges across models. c, d) Changes from the baseline level due to climate change and emissions mitigation efforts under different SSPs and climate change and emissions mitigation scenarios (RCPs) in 2050. Bars shows median level of individual effect across models. Symbols show the combined effects for each model. MAgPIE is excluded due to inelastic food demand. (Hasegawa et all., 2018)

Hasegawa T., Fujimori S., Havlik P., Valin H., et al., (2018) Risk of increased food insecurity under stringent global climate change mitigation policy, Nature Climate Change. Vol.8, pp.699–703.

温暖化による影響費用の算定

温暖化は様々な影響を人間システムに及ぼすと考えられています。農業、水資源、洪水、健康、海面上昇などの分野でそれぞれ発生する影響の費用を主として経済モデルを用いて算定します。対象は世界全体、アジアといった広域を対象として、温暖化を防止することのメリットを伝え、温暖化政策への貢献を目指します。 気候モデル(GCM;General Circulation Model)の出力で得られる気候データを各分野に特化したモデルに入力し(協力研究機関などとも協力)、その結果を経済モデルに入力するというのがオーソドックスな手法になります。

Estimated worktime ratio. Estimated yearly average worktime ratio with a resolution of 0.5° × 0.5°. When the worktime ratio is x, the recommended work-rest ratio is x/(1−x). The left-hand and center columns of panels show the values for low-intensity and moderate-intensity work, respectively, performed indoors (without air-conditioning). The right-hand column of panels shows the values for high-intensity work performed outdoors. The median values of 5 GCMs are shown.

Takakura J, Fujimori S, Takahashi K, Hijioka Y, Hasegawa T, Honda Y, et al. (2017) Cost of preventing workplace heat-related illness through worker breaks and the benefit of climate-change mitigation. Environmental Research Letters, 12(6), 064010.

アジア各国の低炭素シナリオの提示

アジアは世界全体の温室効果ガス排出量の半分近くを占めており、この地域で温室効果ガスが削減できるのかは、世界の気候変動対策の一つの鍵となります。その中でアジア各国は多様な政治体制、エネルギーシステム、温室効果ガスの構成を有しており、さらに各国の政策は異なる優先事項があります。例えば近年では中国の大気汚染は深刻であり、気候変動対策と大気汚染対策は一体となって進められています。そのような各国に応じた低炭素戦略を本テーマでは提示します。

土地利用変化と水・生態系・農業とのかかわり

土地は水、食糧の供給と深くかかわり人類にとって極めて重要な資源です。また、人為起源の土地用変化はこれまで生態系に大きな影響を及ぼしてきました。さらに近年バイオマスエネルギーの供給のために大規模に土地利用改変が必要になる可能性があると言われています。本テーマでは、土地利用の空間詳細な分布を将来にわたって推計し、農業、水、生態系、エネルギーなどとのかかわりを分析します。

Changes in the factions of grid cell area occupied by each land-use category in 2100 from the 2005 level for the baseline scenario.

Hasegawa T., Fujimori S., Ito A., Takahashi K., Masui T. (2017) Global land-use allocation model linked to an integrated assessment model. Science of The Total Environment , 580, 787-796.

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